ヴァンデ・グローブとスプレー号

ヴァンデ・グローブというフレーズを聞いたことはございますでしょうか。

 

いかにも演技派名俳優みたいな言葉の響きですが、

実は世界で最も過酷で壮大なヨットレースなのです。

 

最近では現役の海洋冒険家である白石康次郎氏がメディアで取り上げられていたため、認知が少しづつ浸透してきていると思います。

 

ヴァンデ・グローブは簡単にいうと、「ヨットで世界一周をする」ということ。

そしてルールとして「一人で、無寄港で、物資援助も無し、そして誰にも相談してはいけない(医者は可)」という過酷そのものです。

100日ほどをかけて、南半球を一周することになり、動力となるのは風のみとなります。セーラーはその風を読んだ上で、進行方向を決めていくことになり、幾つかの帆を随時入れ替えながら進んでいきます。

その道中では嵐や10mを超える高波によるヨットの転覆、氷山やクジラとの接触に伴うヨットの大破、海賊との遭遇等、様々なアクシデントが待ち構えており、セーラーは常に「このままレースを続行するのか、リタイアするのか」の判断に迫られております。

コロナ後のスポーツにおいては、無観客試合が新しいスポーツの形と話題となっておりますが、ヴァンデ・グローブはそれが当たり前の世界であり、最も究極の個人スポーツではないでしょうか。

「大海原の中で一人なんとかして、世界一周せい!」ということであり、

テレビでよくある無人島系の番組やあらゆる罰ゲームも一瞬で霞むほどの過酷さは、まさしく真の冒険家でないと踏み入れることはできない領域なのです。

 

観ている側からの魅力は「壮大さ、溢れるロマン」といったところでしょうか。

セーラー側からの魅力は「セーラーとしての冒険心がくすぐられる」といったところでしょうか、いや、これは向こう側の人にならないとわからないことでしょう。

 

そんなヴァンデ・グローブの原点は実は「スプレー号」という漁船にあります。

 

スプレー号は単独では初めて世界周航を達成した船であり、それは立派な専用船というわけではなく、ジョシュア・スローカムという海洋冒険家が1892年に友人から譲り受けたカキ漁船を修理した船がそれとなります。

スローカムは子どもの頃から生粋の海の男であり、半ば腐りかけのカキ漁船を帆船に修理し直し、世界周航を決行したのでした。世界周航には約3年という長い年月要し、ヴァンデ・グローブと同様に当時も海賊に襲われたりと多くの障壁を乗り越えての偉業となりました。

 

スローカムの「スプレー号」は多くのセーラーに大きな影響を与え、スプレー号のような帆船を手に入れたがり、そして多くがスローカムの航跡を辿り世界周航に挑んでいったのでした。そのスローカムの世界周航の航跡から着想を得たのが「ヴァンデ・グローブ」となるのです。

 

航路もそうですが、まさしく冒険家としてのマインドもヴァンデ・グローブにしっかりと引き継がれているようで、まさにロマン溢れるとはこのことですね。

 

©︎2020 宮本快